錯視の科学的研究とは

錯視の科学的研究とは

 

視覚が科学的に研究されはじめたのは、19世紀の終わり頃になってからです。 現在知られている錯視の多くは、19世紀の終わり以降に発見されました。

脳が騙される錯視

ドイツの北部の都市、ハンブルク出身の物理学者であるポッゲンドルフは、1860年にポッゲンドルフ錯視を発見しました。

ツェルナーは、ドイツのベルリン生まれの物理学者・天文学者です。天文学の研究に力を注ぐ一方、1860年に有名なツェルナー錯視を発見しました。

ポッゲンドルフ錯視

ポッゲンドルフ錯視。長方形を横切る線は、長方形の左側と右側で一直線ではなく、上下にずれているように見える。しかし、実際はずれていない。90度よりも小さな角度を、脳が実際よりも大きく見積もってしまうせいではないかと考えられる。

ポッゲンドルフ錯視

ポッゲンドルフ錯視

 

ツェルナー錯視

横線はどれも平行だが、互い違いに斜めに傾いているように見える。 脳が騙され、90度よりも小さな角度を実際よりも大きく認識するせいで起こるのではないかといわれている。

ツェルナー錯視

ツェルナー錯視

 

「心理学の父」が発見した錯視

「心理学の父」といわれるドイツの心理学者のヴィルヘルム・ヴントは、ドイツのネッカラウという町で生まれ、大学で医学を勉強していました。その後、心理学に興味を持ち研究をはじめました。

ヴントは、それまで同じようなものと考えられていた心理学と哲学をはっきりと区別しました。客観的な重視した、新しい心理学の方法を確立しました。 ライプツィヒ大学で哲学の教授を勤めていた1879年に、世界初の心理学の実験室を開設しました。現在ではこの開設した年が、心理学の成立した年とされています。 ヴントが発見したのが、ヴントの錯視です。

ヴントの錯視

2本の赤い線は内側に反っているように見えるが、実際には平行です。これも、直線と斜めの線が作る小さい方の角度を、脳が実際よりも大きく認識してしまうためだと考えられている。

ヴントの錯視

ヴントの錯視

 

同じ長さなのに、異なって見える錯視

ヘルマン・フォン・ヘルムホルツは、ドイツのポツダム生まれの物理学者です。 ベルリンの大学で医学を学び、軍医として勤務しています。その後は、ドイツのいくつかの大学の教授を歴任しました。 物理学と生理学の両方に関心を持ち、どちらの分野でも熱心に研究を進めました。ヘルムホルツが発見したのは、長さに関する錯視があります。

細長い長方形でできた四角形は、多くの人にとって、左のものが縦長に、右のものが横長に見える。しかし実際には、両方とも縦と横が同じ長さの正方形になっています。

ヘルムホルツの錯視

ヘルムホルツの錯視

 

ポンゾ錯視

他にも長さに関する錯視としては、ポンゾ錯視があります。 イタリアの心理学者マリオ・ポンゾ(1882年〜1960年)がポンゾ錯視に関する論文を発表して以来、ポンゾ錯視と呼ばれるようになりました。

上下に並んだ横線は、下よりも上の方が長く見える。横線を囲む斜めの線によって、脳が奥行きを感じ、上の線の方が遠くにあると認識するためだという説があります。同じ長さの線ならば、遠くにある方が長いはずなので、上の線の方を長く感じるということです。

ポンゾ錯視

ポンゾ錯視

 

記憶の研究者の錯視

ヘルマン・エビングハウスは、人の記憶についての研究で知られている心理学者です。ドイツで生まれ、ポーランドのブレスラウ大学で教授を勤めました。彼は人の記憶がどのように続いていくかについて研究を行いました。エビングハウス錯視を発見しています。

エビングハウス錯視

エビングハウス錯視とは、中央にあるオレンジ色の円は、どちらも全く同じ大きさです。右の方が大きく見えるはずです。右側のオレンジ色の円は、周りに小さい円があることで実際より大きく見えます。それに対して、左は周りに大きい円があることで実際よりも小さく見えるためだと考えられています。

エビングハウス錯視

エビングハウス錯視


https://youtu.be/Gx0qoR7fCyQ

世界でも有名な錯視のひとつ

ドイツ南部のバーデン=バーデンという町で生まれたミュラー・リヤーは、大学で医学、心理学、社会学を学びました。その後、医師となりましたが、1888年からはミュンヘンで社会学の研究を行いました。 ミュラー・リヤーは、1889年にミュラー・リヤーの錯視を発見しました。これは世界でも有名な錯視のひとつとなっています。

ミュラー・リヤー錯視

上の直線は、下の直線よりも長く見えるが、実際には同じ長さです。矢印(「<」「>」の部分)が外側に向かっていると、内側に向かっている方の横線よりも長く見えるのか、これまでいくつかの説が考えられてきた。

ミュラー・リヤー錯視

ミュラー・リヤー錯視


https://youtu.be/u0UCxw_ukOQ

脳が線をつなぐ錯視

ガエタノ・カニッツァ(1913年〜1993年)は、イタリアの心理学者です。イタリアのトリエステに「心理学研究所」を作り、イタリアの心理学の研究に大きな功績を残しました。 カニッツァが発見した錯視の中で有名なのが、1955年に発表された「カニッツァの三角形」です。 カニッツァの三角形とは、実際には存在していない三角形の輪郭線を、脳が作り出すというものです。無いはずのリンク線は「主観的輪郭」と呼ばれます。

カニッツァの三角形

カニッツァの三角形

 

無いものが見える錯視

ヘルマンはドイツのベルリンで生まれ、大学で医学と自然科学を学んだ後、生理学などの分野で活躍しました。 ヘルマンは、「ヘルマン格子錯視」と呼ばれる錯視を発見しました。 ヘルマン格子錯視とは、見えないものが見えてくる錯視として、知られています。 白い直線の交差点に見える灰色の影は、周りの黒い四角形を隠すと見えなくなります。

https://youtu.be/2d8Dml6L09s

不思議な絵と図形

アメリカの心理学者として活躍したジョゼフ・ジャストローは、1891年に発表したジャストローの図形の他に、有名なアヒルにもウサギにも見える絵を考案した人物です。

アヒルとウサギ(多義図形)

アヒルとウサギ(多義図形)

 

奥行きを感じる脳

ロジャー・シェパード(1929年〜)は、アメリカのカリフォルニア生まれの心理学者です。幼い頃から絵を描くことが好きで、人を驚かせるようなイタズラが好きだったと言います。アメリカのイェール大学で学び、2013年には、スタンフォード大学の名誉教授に勤めていました。 認知行動科学の分野の権威で、アメリカ国内で最高の科学賞の「アメリカ国家科学賞」をはじめ、たくさんの受賞歴があります。 シェパードが発見したのは、「シェパード錯視」と呼ばれる錯視です。

シェパード錯視

シェパード錯視とは、脚を付けたテーブルのようにした同じ形の平行四辺形を、向きを変えて並べると、左の方が右よりも細長く見えることです。

カフェで発見された錯視

リチャード・グレゴリー(1923年〜2010年)はイギリスのロンドンで生まれました。その後、ケンブリッジ大学で哲学と心理学を学び、エジンバラ大学で機械知能知覚学部を設立しました。ブリストル大学神経心理学の名誉教授となりました。 グレゴリーが発表したのは、「カフェウォール(カフェの壁)錯視」です。 これは、研究室近くのカフェの壁が歪んで見えるデザインであることに気が付いたのがはじまりです。

カフェウォール錯視

カフェウォール錯視とは、黒と白の四角形を並べたとき、段と段の間に横に伸びた灰色の線が傾いて見える錯覚です。この横の線は、実際には平行線です。 灰色の線が黒い場合は、ミュンスターベルク錯視といい、1897年にミュンスターベルクにより発表されました。ミュンスターベルク錯視の黒線を灰色にすると強い錯視になることが1908年に、フレーザーにより発見されていました。